対話録 #1
彼が全学前のベンチにいたので隣に座る。僕は彼の隣に腰かけ、だがや(購買)にて購入したサラダを食べ始めた。
「ずいぶん小食だねえ。」(つぶやきっぽいが、話しかけてきた?)
── 体重が80kgもあるので、今ダイエットしてるんですよ。80kgって太りすぎだと思いませんか?
「まあ、太っているだろうね。」
彼はひたすら食パンをちぎっては雀に餌を与えている。距離があるが手首のスナップを効かせ正確に投げている。
── 雀に餌を与えているんですね。随分コントロール(パン屑を投げる)がいいんですね。
「まあ、そうだな。」
── 今は名大でお散歩されているんですか?
「そうだね。名大を散歩して雀に餌をやるのが日課だからね。」
── 普段は何をされているんですか?
「まあ名大を散歩して若い人たちと話しているんだよ。君のようにね。」
── なるほど。今日の午前中は何をされていたんですか?
「朝の5時に起きて、それから名大を散歩しているよ。」
── 随分早いですね。
「老人には珍しいことではない。」
── うちの爺ちゃんもそんなこと言ってました。
「まあ君のお爺さんよりは私のほうが年寄りだと思うよ。」
── 僕の爺ちゃんは81歳です。
「それなら私のほうが下だね。」
「君は何年生だい?学部は?」
── 情報文化学部の3年です。
「何を勉強しているんだい?」
── 統計学とかです(自信なさげ)
「はあーん。(馬鹿にしたように)それ面白いかい?」
── ワクワクするほどには面白く無いです。
「まあ、そうだろうな。」
「ここの学生は馬鹿ばっかだ。当たり前のことが分かっておらん。」
── 当たり前のことですか...。当たり前のことって直観的に理解してしまうことが多くて、いざ説明しろと言われても反って難しいんじゃありません?
「だから当たり前のことだと言っている。例えば君はモノは何によって動くか分かるか?」
── んー。物理とか分からないです。
「名大の若者に聞いてもみんなこれが分かっとらん。」
── 名大ですからね...(名大の方々には申し訳ない)
「馬鹿だからな。」
── 東大とか他の大学の方なら分かっているんじゃありません?
「他の大学の奴らもダメだ。教育からダメだからな。」
── 海外とか行かれたらいいんじゃありません?
「海外でもダメだ。」
── 海外にも行かれたんですか?
「いや行ってはいない、でもどこも同じだ。」
── そうなんですか...。ていうか当たり前のことって例えば何ですか?
「まあじゃあ真実はいくつあると思うかな?」
── まあ真実は一つじゃないんですか?
「まあ、そりゃそうだ。真実は複数あるわけない。皆それが分かっとらん。」
── ...。
「分からないか?」
── 昔はこういうことを専門にお仕事をされていたんですか?
「いや、私はイチサラリーマンだよ。」
── 具体的にはどのようなことで?
「まあ、建築関係だよ。君にはわからないと思うが。」
── まあ、僕に理解できたのは真実は一つだということですかね。
「じゃあ聞くが物はどうやって動くか?」
── えっ?
「お前も馬鹿だから分からないか。すべての物は押されて動く。」
── うーん。そうなんですかね。
彼はは胸ポケットから携帯を取り出しそれを椅子の上で押して動かす。携帯は黒いガラケーで裏側が結構傷ついている。
「ほら、押さないとうごかないだろ。」
「ところで君、今日ベルトはしてきているかね?」
── ベルトですか?してきてますけど...。
「なら俺の前に立ってご覧。ほら早く。」
── はっ、はい。(戸惑いつつも贅肉を締め付けているベルトを見せる。)
「グイッ。」ベルトを引っ張ってくる。結構強くてビビった。
「ほらな、君はいま押されただろ。物は押されて動くんだ。」
── はい、引っ張られて動きましたね僕は。(絶対押されてはないと思うが...)
「ん、君は押されただろ。理解できるか?」
── なんとなく。でもやはり難しいです。
「これが理解できるか。真実は一つなら物は押されてのみ動く。結局、引っ張られても動かない。これは当たり前のことだ。」
── でも、感覚的には理解できないです。
「まあ、君は馬鹿だから仕方ないな。」
── 名大生ですからね。えへへ。
「これ以上君と話していても意味がないな。君は馬鹿だから。」
── なんかすみませんね。
(2015/06/19)