職人の手によって精巧に作り上げられた、本物そっくりの食品サンプル。
あれが欲しい。出来るだけ安い値段でよりいい出来のものが。
本物を凍らせたら食品サンプルができそうじゃないか。
食品をサンプルにしたい
わざわざ食品サンプルで有名らしい岐阜まで行って買い物をしてくるような食品サンプル好きの友人(久保)が困っていた。
「食品サンプルはピンキリで、いいものほど高い」
本来食品サンプルは消費を促すためのものだろうが、今やそれ自体が消費の対象になっている。けっこう食品サンプルが欲しいという人は多い(僕を含め)。
でも食品サンプルは高いのだ。安いものもあるらしいが、それらはよく見なくても本物でないとわかるものだという。本物でないとわかったらそれはただのおもちゃなのでだめだ。でも安く買いたい。安さとリアリティがかけられた天秤はどちらにも傾かないのだ。
食品サンプルは、簡単に言ってしまえば「食べ物の形をしたかたまり」だ。だったら食べ物を固めれば食品サンプルになるはずだ。これなら安価だし、キッチンに立つ全ての人が職人になる。
凍ったメシではだめ
あらゆる料理が食品サンプルになりうるので、メニューの選出には結構時間をかけた。その結果選んだ3品がこれ。
なんで全部麺類で、しかも即席かというと、たとえばチャーハンを冷凍して食品サンプルにしようとすると、できたものがただの凍ったメシになってしまう可能性があるからだ。
素直な冷凍食品が完成するとまずいので、これから麺を凍らせるだけで食品サンプルになる工夫をしていく。こだわりを持たない職人ならではのリスクヘッジだ。
即席にしたのは僕が全然料理できないから。
フォークが食品サンプルたらしめている
中華鍋の中であおられているチャーハンの時が止まったような食品サンプル、あれを見たことがあるだろうか。あれはすごい。しかし見たときの感想は「本物みたい!」ではなく「すごい食品サンプル!」である。
食品サンプルが本来目指すべきである本物を超えて、あのチャーハンは食品サンプルを極めているのである。僕の中ではあのチャーハンがナンバーワン。
あの躍動感を冷凍で再現したいところだが、やろうとすると多分すごい大変なのでできない。だから麺にした。麺はフォークで持ち上げた状態を固めれば、それに躍動感を与えることができるのだ。
そのための皿を作った。やり方は簡単で、竹串を支えにしてホットボンドでフォークを皿に固定するだけで完成。
そして麺をセッティング。これだけで相当食品サンプルっぽくみえる。
フォークによって麺に躍動感が与えられただけでなく、「誰も持っていないフォークが麺を持ち上げている=食べる者はいないし、誰も食べることができない」というイメージが伝わってきて、食品サンプル感がより一層増している。
サンプル作りは冷凍庫掃除に始まる
もうあとは皿とカップごと凍らせればいいので手間取るのはここまでである。そう思っていたら、そのためのスペースが冷凍庫になかった。
ここまでカップ焼きそばが全然出てこないというのはそういうわけなのだ。冷凍庫は僕だけのものではないので、スペースを確保しきれなかった。
ちなみにこのとき冷凍庫を整理して出てきたのが、4年前の肉。
一般的な家庭においては、押入れに次いで冷凍庫がごちゃごちゃしがちであるので、サンプル作りの際は冷凍庫の整理が必須になってくる。(ぼくんちだけではないはず)
しかしサンプル職人の苦労に比べれば全然大したことないだろう。場所を確保して置いておくだけでいいのだ。ディズニーランドでパレードの場所取りするお父さんみたいなもので、そんなのは誰でもできる。
液体はなかなか凍らない
はやく食品サンプルで遊びたくて我慢できなかったので、1時間くらいして冷凍庫をあけてみると、手前に置いたカップヌードルの麺がすでに固まっている。
さっそく冷凍庫から出して、写真を撮ろうとした。ついに「食べ物でもある」というサンプルの壁を超えた食品サンプルができたのだ。もうテンションは上がりまくり。
だからすっかり忘れていた。スープがあることを。
麺だけが凍ったカップヌードルをもって、デスクに向かって走った。不運にもカメラをデスクに置いたままだったのだ。そしてカップヌードルが完全に固形になっていると思い込んでいる僕は、こぼれるはずのない(と思っている)液体をこぼしてしまった。液体は凍るまでに時間がかかるのだ。
正直かなりへこんだ。パソコンとデスクににおいが染みついた。カップヌードルのにおいって、お腹が減っているときに嗅ぐといいにおいだけど、そうじゃないときはうれしくないにおいだ。
こぼしたのが梅茶漬けだったら、いつ嗅いでもいい匂いだから拭けば済んだかもしれないけど、カップヌードルだとそうはいかない。
固めたら食品サンプルになった
そこから3週間くらい待った。(スープにびびって。)さすがに3週間も冷凍庫も入れておいたので、スープも麺もしっかりと固まっていた。
正直カップヌードルのほうはよくできている。麺から立ち上る冷気はまるで湯気のようで、本来の食品サンプルよりも演出がリアルだ。
スパゲッティは、温度と一緒に料理としての色の暖かみまでも失って、やはり冷凍食品みたいになってしまった。ただの凍ったスパゲッティよりも、凍る前のほうがずいぶんサンプルっぽい。
しかし凍らせて形が変わらないようにしてあるので、重力を無視できるのが強みだ。
変な写真を撮るのは、従来の食品サンプルでもできる。それと比べてこの食べ物からできた食品サンプルが優れているのは、やはり食べられるという点だろう。凍ってるうちに遊んで、飽きたら食べられる。
あとカップヌードルを透視した気分になれる。
サンプルを超えたサンプル
食品を凍らせればだいたいサンプルになることがわかった。でも凍らせなくてもフォークを付ければサンプルっぽくなることもわかった。
ただし、時間が経つととけてしまうので、遊べる時間には限界がある。しかも作った食品サンプルは皿とかが冷たすぎて指が痛くなるので連続して遊べない。
これを読んでやってみようという人には、楽しさのあまり指が壊死しないように気を付けていただきたい。(僕の場合は痛さが楽しさに勝った。)
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